日本にある公安系の公務員は階級社会です。
警察官や自衛官の階級は特に有名ですが、消防にも階級制度は存在します。
今回は、あまり知られていない、消防士の階級の種類、階級の特徴、階級ごとの平均年齢など、階級に関する情報をたっぷりお伝えします。
【この記事を書いた人】
・政令市の消防士と行政職、町役場を経験
・公務員試験は独学・予備校両方で合格を経験
・YouTube ⇒ ハチサン公務員
★目次
- 消防の基本
・723の消防本部と16.7万人の消防吏員 - 階級の基本
・階級の種類
・規模により階級の数は違う
・階級章で偉さがすぐ分かる - 各階級の特徴を説明
・消防士
・消防副士長
・消防士長
・消防司令補
・消防司令
・消防司令長
・消防監
・消防正監
・消防司監
・消防総監 - 階級ごとの年齢について
・消防本部の規模・階級別年齢幅
・消防本部の規模・階級別平均年齢 - まとめ
1.消防の基本
♦723の消防本部と16.7万人の消防吏員
■消防吏員とその他の職員
日本には、令和5年4月1日現在で、723の消防本部(東京消防庁や〇〇市消防局、〇〇消防組合など)が設置されています。
そして約16.7万千人の消防吏員が消防業務に従事しています。
この消防吏員とは、消防本部で働く消防職員のうち、消防長に採用されて階級を持ち、現場で活動することができる人のことを指します。
それ以外に消防事務で採用されたり、市役所から人事交流により一定期間のみ消防業務に従事する人などは、現場活動は当然できません。
これらの人は消防職員の中でもその他職員となるため、消防吏員とは呼びません。
■消防士は階級の名称
そして消防吏員とは、みなさんが普段呼んでいる「消防士」という職業の正式名称になります。
「消防士」という名称は、実は消防吏員の階級の中の1つ。
ただ、世間一般的には消防吏員という名称に馴染みがないため、消防吏員は通常「消防士」と呼ばれています。
消防官と呼ばれることもありますね。
2.階級の基本
♦階級の種類
消防吏員には全部で10個の階級があります。
- 消防総監(最高位)
- 消防司監
- 消防正監
- 消防監
- 消防司令長
- 消防司令
- 消防司令補
- 消防士長
- 消防副士長
- 消防士(一番下)
そして、星の数とラインで階級が分かるようになっています。
ちなみに警察官の場合もおよそ10階級、陸上自衛隊の場合は16階級に分かれています。
♦規模により階級の数は違う
ただ、723ある消防本部の全てに、10個の階級が設置されているわけではありません。
大きい消防本部ほど、設置されている階級の数が増えます。
消防本部は、規模の大きさで5つに分けることができます。
このうち最も小さい規模の消防本部は、消防士から消防司令長までの6つしか階級がありません。
一方、日本で一番大きい消防組織である東京消防庁は、消防士から消防総監までの10階級、全てを有しています。
■東京消防庁
消防士から消防総監まで10階級全てあります。
東京消防庁のみ
■政令指定都市・人口70万人以上の市町村
消防士から消防司監まで9階級あります。(消防総監なし)
横浜市消防局、大阪市消防局、名古屋市消防局、札幌市消防局、京都市消防局 etc
■消防吏員が200人以上又は人口30万人以上の市町村
消防士から消防正監まで8階級あります。(消防総監・消防司監なし)
枚方寝屋川消防組合消防本部、とかち広域消防局、岐阜市消防本部、埼玉東部消防組合消防局、船橋市消防局 etc
■消防吏員が100人以上又は人口10万人以上の市町村
消防士から消防監まで7階級あります。(消防総監・消防司監・消防正監なし)
岩見沢地区消防事務組合消防本部、栗原市消防本部、座間市消防本部、小牧市消防本部、箕面市消防本部 etc
■消防吏員が100人未満かつ人口10万人未満の市町村
消防士から消防司令長まで6階級あります。(消防総監・消防司監・消防正監・消防監なし)
中間市消防本部、丹波篠山市消防本部、精華町消防本部、富里市消防本部、伊奈町消防本部 etc
■消防組織のトップは消防長
消防では各消防本部のトップ、一番偉い人のことを消防長と呼びます。
規模の小さい消防本部における消防長の階級は消防司令長になりますが、東京消防庁の消防長の階級は消防総監となります。
東京消防庁のみで、この消防司令長以上の階級を有している消防吏員は、なんと400人を超えます。
さすが日本一の巨大消防組織です。
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♦階級章で偉さがすぐ分かる
■階級章は便利
社内や取引先の人と初めて会う場合、名刺や挨拶がなければその人の役職やポジションが分からず、困ることってありますよね。
相手の立場が分からず、ぎこちない会話になることもあります。
しかし、消防の場合はそんな心配がありません。
なぜなら、消防吏員はみんな階級が分かる階級章を胸に付けているからです。
初対面の場合でも、階級章を見れば相手の階級がすぐ分かるため、上の階級の方に対して失礼な言動を避けることができます。
消防吏員が多い大きな消防本部だと、災害現場で他の部隊の人と初対面になることもあるため、階級が分かれば、指揮統制がしやすいというメリットがあります。
■金色だと階級が高い
階級章は大雑把に言うと、黒のラインが細くなるにつれて、また、星の数が増えるにつれて上の階級を示しています。
例えば一番下の「消防士」は太い黒のラインに星が一つ、一番上の消防総監は、黒のラインがなく金ピカで星が4つも付いています。
もし今度、消防吏員を見かけることがあれば、これを思いだして階級章を見てみてください。
その人の階級が簡単に分かります。
3.各階級の特徴を説明
消防士から消防総監まで全て紹介します。
階級章の画像は大阪市のホームページから引用。
♦①消防士
全階級のうち、一番下の階級になります。
大卒・高卒関わらず、採用された消防吏員はみんなここからスタートです。
消防士として採用されたら、まずは消防学校で半年間初任者研修を行い、卒業後に各所属に配属されます。
災害現場では、小隊長らの指示のもと、最前線で活動します。
消防業務以外に、雑用もたくさんこなさないといけないので、ある意味一番忙しいかもしれません。
♦②消防副士長
下から2番目の階級です。
ただ、「消防副士長」を設置していない消防本部もあります。
その場合は、消防士から消防士長に昇進します。
消防組織法には、消防副士長を除く9個の階級が記載されているのですが、消防組織法第4条に「特に必要があると認めるときは、消防士の階級を消防副士長及び消防士の階級に区分することができる。」という記載もあります。
そのため、消防副士長を設置している消防本部と、設置していない消防本部が混在。
消防副士長へは昇任試験を受けなくても、勤務年数で上がることが可能です。
かつては、年功序列である程度まで給料が上がっていたため、あえて昇任試験を受けずに消防副士長で退職する人もいました。
♦③消防士長
全消防吏員のうち、約25%を占めており、およそ41,000人が消防士長の階級に属しています。
消防士長になるには、昇任試験に合格することが必須。
体力も経験もある職員が多いため、現場活動では中心的役割を担います。
ただ、年齢層が幅広く、早い人は20代中盤で消防士長に昇進しますが、ちらほら50代の消防士長の方もいます。
こういう方は上に昇進できないのではなく、自ら昇進を望んでいないことが多いです。
小隊長不在の場合は、代わりに小隊長を任せられることもあります。
火災現場では消防車の操作や、放水、後輩への指示など何でも行います。
♦④消防司令補
消防士長と合わせて、消防吏員の中で占める割合が多い階級です。
消防士長と消防司令補だけで、全消防吏員の約50%を占めます。
消防司令補になると、ポンプ隊や救急隊、救助隊など隊の隊長と活動。
出場指令があれば隊の小隊長として出場し、災害現場で部隊に指示を出します。
また、指示をするだけではなく、救助活動や救急処置など実際の現場対応にも当たります。
基本的に消防は、階級が上にあがるほど現場活動から遠ざかるので、火災や救急などの災害現場で、活発的に活動するのは、この消防司令補までと考えていいでしょう。
♦⑤消防司令
指令があれば、大隊長として災害現場に出場。
消防司令になると消防車や救急車には乗らず、指揮隊として災害現場に出場し、現場の指揮統制を行います。
消防司令より上の階級が現場に来ることはほとんどないので、「消防司令」が現場の最高責任者となります。
ただ、出場しても放水や患者の救急処置など、直接的な現場活動を行うことはほぼありません。
出張所などに勤務していれば、所長クラスです。
消防司令以上になると、部署にもよりますが会議などに出席することも多いです。
♦⑥消防司令長
ここから先の階級になると、現場に出場することは滅多にありません。
ほとんどの消防司令長が24時間の泊まり勤務ではなく、日勤(8:30~17:15までの勤務で土日・祝日が休み)で消防業務に従事しています。
管理職であるため、みなさんがイメージする「消防士」とは違い、事務的な仕事がメイン。
規模が最も小さい消防本部では、この消防司令長が6階級あるうちの一番上、すなわち組織のトップ(消防長)になります。
一方、東京消防庁では10階級あるうちの上から5番目の階級で、課長クラスになります。
総務省消防庁のデータによると、全国の消防本部で消防司令長が占める割合は、全体の約4%だそうです。
♦⑦消防監
災害現場に出場することは皆無です(大規模な災害現場を視察することはあるかも)。
消防吏員が100人以上又は人口10万人以上の市町村を管轄する消防本部では、この階級が消防長になります。
さらに規模が大きい消防本部では、消防署勤務の場合は署長や副署長、本庁勤務の場合は人事課長や警防課長などの役職についています。
逆に、これより小規模な消防本部には「消防監」という階級は設置されていません。
消防監は全消防吏員の約1%にあたります。
♦⑧消防正監
全国の消防吏員16万5千人のうち、消防正監は約400人ほどしかおらず、年齢はほとんど50代後半の方たちです。
岐阜市消防本部や船橋市消防局規模の消防本部だと、消防正監が消防長になります。
これより大きい消防本部であれば、部長・次長級になります。
東京消防庁の場合は、消防学校の校長や、10か所に分かれている各方面の方面本部長に該当。
全724消防本部のうち、約250前後の消防本部にこの階級が設置されています。
♦⑨消防司監
消防司監の階級を有する人は全消防本部で約30人です。
政令指定都市規模の消防本部では組織のトップになります。
政令指定都市以外では、「埼玉西部消防局」と「奈良県広域消防組合消防本部」の2つの消防組合(市町村の連合のようなもの)が消防司監の階級を設置。
東京消防庁では、消防司監は次長クラスになります。
23か所の消防本部のみが有している階級になります。
♦⑩消防総監
消防の階級の中で最高位にあたります。
日本でこの階級が設置されているのは東京消防庁のみで、東京消防庁の消防長が唯一この階級に該当します。
消防の最高位であるため、他の消防長よりも注目度は高く、新しい消防総監が就任する際は、ニュースで報道されることも多いです。
ただ、消防総監は東京消防庁のトップというだけで、他の消防本部に対して命令する権限はありません。
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3.階級ごとの年齢について
東京消防庁を除く、4つの規模の消防本部について、階級ごとの年齢構成を調べました。
15か所の消防本部を調べ、各データの平均を出しています。
♦消防本部の規模・階級別年齢幅
階級の年齢幅は、大きい消防本部だと消防士長、小さい消防本部だと消防司令補が広い傾向です。
10代の消防吏員は全て「消防士」で、1人も消防副士長以上はいません。
階級 | 大規模 | 中規模 | 小規模 | 最小規模 |
---|---|---|---|---|
消防司監 | 58~59歳 | ー | ー | ー |
消防正監 | 55~59歳 | 58~59歳 | ー | ー |
消防監 | 54~59歳 | 54~59歳 | 57~59歳 | ー |
消防司令長 | 48~59歳 | 49~59歳 | 50~59歳 | 55~59歳 |
消防司令 | 38~59歳 | 38~59歳 | 44~59歳 | 48~59歳 |
消防司令補 | 31~59歳 | 32~59歳 | 32~59歳 | 34~59歳 |
消防士長 | 25~59歳 | 26~56歳 | 26~44歳 | 28~46歳 |
消防副士長 | 24~49歳 | 24~56歳 | 24~33歳 | 24~39歳 |
消防士 | 18~35歳 | 18~34歳 | 18~30歳 | 18~32歳 |
♦消防本部の規模・階級別平均年齢
消防司令長以上の階級は、消防本部の規模が大きいほど、平均年齢が若くなっています。
この表と上の表を見比べると、平均よりもだいぶ早く昇進している人がいることが分かります。
たとえば、大規模消防本部の消防司令補の平均年齢は45.1歳ですが、31歳で消防司令補になっている人もいるようです。
階級 | 大規模 | 中規模 | 小規模 | 最小規模 | 平均 |
---|---|---|---|---|---|
消防司監 | 59.0歳 | ー | ー | ー | 59.0歳 |
消防正監 | 57.4歳 | 59.0歳 | ー | ー | 58.2歳 |
消防監 | 57.1歳 | 57.1歳 | 59.0歳 | ー | 57.7歳 |
消防司令長 | 54.5歳 | 54.9歳 | 56.4歳 | 57.9歳 | 55.9歳 |
消防司令 | 49.1歳 | 47.7歳 | 52.4歳 | 53.0歳 | 50.6歳 |
消防司令補 | 45.1歳 | 43.3歳 | 42.0歳 | 44.8歳 | 43.8歳 |
消防士長 | 36.3歳 | 35.6歳 | 31.1歳 | 35.9歳 | 34.7歳 |
消防副士長 | 30.5歳 | 28.9歳 | 26.8歳 | 29.5歳 | 28.9歳 |
消防士 | 23.9歳 | 24.3歳 | 22.2歳 | 24.4歳 | 23.7歳 |
ちなみに消防総監という階級は、東京消防庁の消防長のみの役職で、だいたい就任して2年ほどで退職となるため、年齢は58歳、59歳になります。
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4.まとめ
消防士から消防総監まで、消防にある10個の階級を紹介しました。
イメージとしては
- 消防士、消防副士長 :若手
- 消防士長、消防司令補:現場の中枢
- 消防司令 :現場で指揮をとる人
- 消防司令長:偉い人候補
- 消防監以上:偉い人
- 消防総監 :特別な存在
こんな感じです。
もちろん、予防や総務など日勤の方に回れば、階級に関係なく災害現場に出ることはほぼありません。
今後、ニュースやドラマ、現場で「消防吏員」を見かけた際には、是非階級章をチェックしてみてください。
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